高卒求人の数を業界別に見たとき、長らくTOP3の座にあるのが「製造業(約32%)」「建設業(約17%)」「卸売業・小売業(約11%)」の3業界(※)。ここだけで全体の約60%を占める計算です。一方で、良い高卒採用を行うには、自社の業界の特性を理解したアプローチが重要です。

そこで今回はこの中から「建設業」にスポットを当て、建設業ならではの効果的な採用活動についてご紹介いたします。

(※)出典:厚生労働省 令和5年度「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況」取りまとめ

建設業界の採用の現状

業界別の高卒求人数でTOP3に入る建設業ですが、特有の課題もあります。他の業界と比べて、求人数に対して応募者数が少ない傾向があるのです。地域にもよりますが、求人充足率はおおむね2割前後というデータもあります。10人の求人に対し2人しか採用できておらず、人材不足が深刻な状況です。

なぜ建設業界の採用が厳しくなっているのか

建設業界の採用が厳しいのは、業務内容がハードなイメージが強いためだと言われます。“現場”の仕事はどうしても、体力的にきつく危険を伴う面があるからです。

また、時代と共に若者の価値観も変わるものです。高校生を含む現在の若者たちは「Z世代」と呼ばれますが、彼らは安定性やワークライフバランスを重視する職業観が強いと言われます。ほどよく仕事とプライベートを両立し、自分らしく生きる(働く)ことを大切にするのです。そのため「厳しい環境でも、頑張ってばりばり稼ぐぞ!」という若者は、昔に比べて少なくなっています。

こうした背景から、就職希望の高校生に建設業界が敬遠されがちなのは、残念ながら否定できない状況です。

若年層の人材が定着しにくい状況にある

加えて、採用後にも課題を残します。厚労省の調べによると、高卒就職者全体における3年以内の離職率は約35.9%。その中で建設業は約42.2%と、平均より高くなっています。さらに業界全体で29歳以下が約1割、55歳以上が約3割と、他の業界と比べて中堅層が空洞化し、年齢水準が高いことも特徴です。つまり若者が定着しにくい状況にあると言えますが、なぜそうなってしまうのでしょうか。

若年層人材が定着しない理由に、ミスマッチあり!?

国交省が、あるユニークな調査を行っています。若者が建設業を辞めた理由や定着しない理由について、若者本人と企業にそれぞれアンケートを取ったのです。

これによるとTOP5は、若者が「1位:雇用が不安定」「2位:遠方の作業場が多い」「3位:休みが取りづらい」「4位:労働に対して賃金が低い」「5位:作業に危険が伴う」を挙げています。しかし企業側は、若者が定着しない(と思う)理由のTOP5に、「1位:作業がきつい」「2位:若者の職業意識が低い」「3位:現場での人間関係が厳しい」「4位:労働に対して賃金が低い」「5位:休みが取りづらい」を挙げたのです。

これらを比較して分かるのは、若者側は待遇面に不満を抱えていることを示す回答が多いにもかかわらず、企業側は仕事内容に問題があると考えていることです。ここに大きなミスマッチが生まれています。これでは、いくら対策を取っても的外れになりかねません。まずはこのような認識の違いを正しく把握したうえで、適切に手を打つことが高卒採用や人材定着成功の第一歩だと言えるでしょう。

【建設業界】高校生採用の進め方

ミスマッチを防ぎ、着実な採用とその後の定着を成功させるには、採用の目的を明確にし、計画的に採用活動を行っていくことが欠かせません。ここでは、そのステップを解説いたします。

採用計画を立てる

採用が厳しい状況にあると、どうしても「とにかく数を!」と考えてしまうものです。しかし、それは一過性の対策にすぎず、最終的には自社の首を絞めることになりかねません。やみくもに頭数だけ揃えても、仕事への意欲のない人材や早期に辞めてしまう人材では、結局すべてが無駄になるからです。そうならないためにも、中長期の事業計画に基づいて、達成のために「どんな人材が」「いつまでに」「どれくらい」必要なのかを考え、それに沿った採用計画を立てましょう。

また、高卒採用のスケジュールは行政・学校組織・主要経済団体によって統一ルールが設けられています(通称:三者間ルール)。求人票の公開など、採用活動は7月に一斉解禁されますので、そこから逆算すると、おおむね1~3月ごろにはその年の採用計画を策定しておくのが望ましいです。

採用手法を検討する

採用計画を立てたら、次は採用手法を検討します。

高卒採用の基本情報は、学校に届けられたハローワークの求人票がベースとなります。進路指導の先生や生徒たちは、それを見ながら比較検討していくのです。しかし、ただ学校に求人票を配るだけでは不十分。それ以外の広報ツールやアプローチも大切になってきます。例えば高卒採用パンフレットを作成したり、WEBサイトの見直しをしたり。学校訪問を行って先生方と関係性を築く、今年の生徒たちの現状をヒアリングするといった、地道に足を使った活動も効果的でしょう。

ハローワークに求人票を提出できるのは6月からですので、こうした採用手法の検討や実施は、4~5月ごろまでに済ませておきたいところです。

求人票作成

求人票は高卒採用の基本。ただし、一般的な求人広告物とは違い、記載上のルールやフォーマットは他社と同じ条件です。写真などの記載もできず、限られた誌面で文字による基本的な情報しか伝えることができません。そのため他社との差別化が難しく、これだけで自社を選んでもらうのは難しいのが現状。そのため、上述のようなパンフレットなど、サブツールが効果的になるのです。

しかし、求人票も書き方を工夫することはできます。専門用語を避け、高校生が分かりやすい言葉で表現することや、採用計画に基づいた求める人材像をイメージしながら作成するだけでもかなり違います。味気ない情報の羅列とはまた違う、“血の通った”求人票になりますよ。他の採用ツールと同じく、4~5月には完成させておきましょう。

書類選考&面接

7月からは、いよいよ採用活動の解禁です。学校への求人票送付や、応募前職場見学がスタートします。ここから高校生たちは本格的な「就職活動」に入り、9月からは応募の受付開始です。

ここで気を付けたいのは、受付開始から内定までの期間が短いことです。2024年度入社の採用スケジュールを例に取ると、9月5日に受付を開始、9月16日から選考および内定、9月中にはこれらを終え、10月以降はすぐに二次募集がスタートします(一部地域除く)。1か月足らずですべてを行いますので、スピーディに進めましょう。

なお、選考の際にはもう1度採用計画に立ち返って「求める人材像」を明確にし、採用活動にブレが出ないようにしてください。

入社準備も気を抜かず

三者間ルールにより、高卒採用は内定後も企業から生徒への直接連絡は禁止されています。高校を介してコンタクトを取る必要があるので注意しましょう。

一方で、内定から入社までは数カ月~半年もの時間が空きます。この間にモチベーションが低下する生徒や、不安を抱えたまま過ごしている生徒は少なくありません。あまりにも企業側から何の連絡もないため、先生に「本当に自分は採用されたのか」という相談をする生徒もいます。こうしたところからも企業への愛着心や安心感が生まれますので、こまめ、かつ早めに連絡を取り、しっかりと内定後フォローを行ってください。必要な事務連絡だけでなく、社内情報誌類や自社の近況を知らせる案内などを送るのも効果的です。

採用を成功させる5つのポイントとは?

業務内容や待遇面において、ネガティブなイメージが先行しがちな建設業界。実際にはそうでないにも関わらず、勘違いされている部分も多々あります。採用活動を成功させるためには、これらの誤った認識を払拭し、正しく情報や魅力を発信していくことが重要です。

高収入や福利厚生の魅力をPRする

「建設業は給料が低い」と認識される傾向があるようです。しかし厚労省の調査によると、建設業界の平均月収(19歳以下)は19万3,800円。他業界と比較しても1~2万円ほど高い数値です(※)。また、20歳以上を含めた全世代の月収も、他業界より高いというデータも出ています。こうした事実をきちんと伝え「高収入」であることをアピールしたいところです。

しかし、Z世代は単に「稼げる」ということだけではあまり魅力を感じてくれません。彼らは「安定性」をより強く求めていますので、収入面だけでなく福利厚生や休日・労働時間などの総合的な労務環境も整え、併せてアピールをするようにしてください。

※出典:令和4年賃金構造基本統計調査 

キャリアチェンジ可能で長く働けることを伝える

建設業界は「体力的に若いうちしかできない」「年齢や経験を重ねてもずっと同じ仕事をしている」と思われている面もあります。しかし実際には、中堅技能者、職長とステップアップを重ね、マネジメントにも携わる登録基幹技能者や、複数の現場を統括するリーダー、将来的な独立など、さまざまなキャリアパスが考えられるはずです。

このように「未来に夢や希望が描ける業界」であると伝えることは、より強い安心感とその後の定着率向上にもつながります。国交省が推進する「建設キャリアアップシステム(CCUS)」に登録することも、公的な信用度を高めるには効果的です。

資格取得やスキルアップのサポート制度をつくる

若者は安定性を求めていると言いましたが、それはイコール挑戦心や向上心がないという意味ではありません。より高い技能を身に付けたい、成長したいという気持ちはしっかり持っています。

そのためにも、意欲に報いる制度の有無は大切です。本人の努力や意欲にだけに委ねるのではなく、会社としてバックアップする体制を整えましょう。資格取得のための費用を補助するのは良い例です。従業員の保有資格によって国から助成金が出る制度もありますので、会社にとってもメリットがあります。

資格取得に限らず、PCやソフトウェアの操作スキル、あるいは事務処理能力、営業能力を高めるための研修などを実施するのも、魅力的な取り組みとして高評価になるでしょう。

女性が働きやすい環境を整える

男性比率の高い建設業界ですが、近年は社会的なジェンダー意識の高まりもあってか、女性の就業者は増加傾向にあります。一言で建設業と言っても事務職や営業職などもある上、まだ少ないながらも技能職(現場系)に就いている女性もいるのです。2021年には、女性の技能職者を支援する一般社団法人「女性技能者協会」も設立されました。

こうした事実を若者だけでなく企業側も見落とし、過去の慣例や思い込みから、設業界と言えば力仕事であり、女性には向かないと思いこんでいる面もあります。この発想の転換だけでも、女性の雇用というブルーオーシャンに漕ぎ出すことは可能です。

ただしそのためには、女性が働きやすい環境を作ることが欠かせません。男女別のトイレ、更衣室などの設置のほか、出産や子育てと両立できる労務環境の整備も必要です。また、男性目線の論理だけでものごとを判断しないよう、社会の意識や風土を整えていくことも重要です。

パンフレットで企業の「想い」を伝えること

求人票以外にパンフレットなどのサブツールも重要であるとご説明しましたが、ここでは、しっかり企業としての「想い」を伝えてください。自社が建設という営みを通して、社会に何を届けたいのか、どんな貢献がしたいのかを熱く語りましょう。

ワークライフバランス重視のZ世代ですが、実は仕事における「社会貢献度」も非常に大事にしています。安定していれば良い、休みが多ければ良い、成長できれば良いというだけではなく「世の中や誰かの役に立っている」という自己有用感を強く求めているのです。

その点、建設業は「町や暮らしを作っている」ことをダイレクトに感じられる仕事です。企業側も、単に業務として粛々と採用活動をこなすのではなく「このロマンややりがいに共感してもらえる仲間を増やすんだ!」という気持ちで臨みたいところです。

【採用してもすぐに辞めてしまう!】人材の定着率を上げるためには?

採用ができても、その後の定着率にも課題を抱える建設業界。原因はミスマッチにあると上述しましたが、では実際に何をどうすれば良いのでしょうか。

求める人材像を明確にする

採用におけるミスマッチが起こるのには、大きく2つの理由があります。1つは、企業側が求める人材像と異なる人材を採用してしまうから。

そもそも人材採用とは、その場の労働力という“コマ”をかき集めることではなく、今後の自社の成長や発展のために行うものです。それにおいて「やる気のある人」「元気な人」といった、どの業界・職種でも当てはまるような漠然とした人材像では不十分。自社の現状に足りない部分、強化したい部分、将来的に担って欲しい部分などを考慮しながら、そこで求められる資質・能力、人柄や価値観などを割り出し、具体的に「このような人を採用したい」という明確な人材像を設定しましょう。

自社の強みを整理する

ミスマッチが起こるもう1つの理由は、求職者(高校生)側の理解不足。誰もが「こんなふうに働きたい」「こんなふうに成長したい」という希望を抱いて入社してきますが、「思っていたのと違う」となってしまうのです。

求人票だけで自社の魅力や特徴を伝えきれないことは繰り返しお伝えしてきましたが、それ以前に、企業側が自社の強みが何か客観的に整理できていないことも少なくありません。そのためせっかくパンフレットなどを作っても、他社と代わり映えしない一般論だけを述べたような内容になってしまうのです。

例えば「仕事は分かるまで丁寧に教える」「新人であっても、意見や考えを自由に述べることができる」など、いろいろな魅力があるのではないですか? まずは自社の魅力を思いつく限り書き出して「見える化」しましょう。幹部や採用担当者だけでは気付けない強みが隠れていることもありますので、既存の社員が実際に何を魅力に感じているのか、アンケートを取ってみるのも効果的です。そうして出てきた魅力を整理し、ありのままを伝えることでミスマッチが減らせるはずです。

フォロー・育成体制を整える

長く安心して働ける体制があることは、採用時も採用後も重要です。キャリアアップへの支援はもちろんのこと、人材育成の手法やそれに伴う上司や先輩との関係性も大切になってきます。

特に建設業や製造業の現場では、職人気質な「見て覚えろ」という育成文化が強いですが、残念ながら現代の若者にはあまり受け入れられなくなっています。気合いや根性論ではなく、合理的な指導を求めているのです。「俺たちの若いころは……」という気持ちもよく分かりますが、それを押し付けるだけでは若者からは選ばれませんし、うまく育たないでしょう。

上司とはまた違った、近い年代の先輩社員などが、良き兄貴分・姉貴分として指導・サポート役を務める、メンター制やバディ制などを導入するのも効果的です。

建設業界の高校生採用にお困りの方はハリケンナビにお任せください

厳しい採用環境の中にある建設業界ですが、改善して前進できる要素もたくさんあります。ハリケンナビでは、そうした採用サポートも行っておりますのでぜひご相談ください。

パンフレットなどの採用ツールの制作、貴社の魅力をより広く深く伝えるWEB媒体、採用イベントの開催などさまざまな形でのお手伝いが可能です。

まとめ

高校生が思っている建設業界と、実際の建設業界は異なる点がたくさんあります。彼らの持つネガティブで誤った先入観を取り払い、正しく魅力を伝えていくことが大切です。まずは「長く安心して働ける」ことのアピールから始めましょう!

一方で、建設業界は「きつい」「汚い」「危険」の「3K」と揶揄されることもありました。しかし現在は、これに変わる「新3K」として「給与」「休暇」「希望」、さらに「かっこいい」を加えた「4K」を目指すべく、国も業界も制度改正などに力を入れています。

この流れに乗って、良い採用活動の成功を目指していきたいですね。